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2021年8月6日金曜日

強権国家ベラルーシで働く女性記者 真実を報じ禁錮半年の処罰に

 

強権国家ベラルーシで働く女性記者 真実を報じ禁錮半年の処罰に

出廷したボリセビッチさん(手前)と、死亡したボンダレンコさんの医療情報を明かしたとして起訴された医師(奥)=ミンスクで2021年2月19日、ベラルーシ国営ベルタ通信、AP配信
出廷したボリセビッチさん(手前)と、死亡したボンダレンコさんの医療情報を明かしたとして起訴された医師(奥)=ミンスクで2021年2月19日、ベラルーシ国営ベルタ通信、AP配信

 強権体制が強まる旧ソ連のベラルーシで今、最も危険な職業は記者と言われる。政権に批判的な報道機関の記者が拘束される事例は後を絶たない。1人の男性が死亡した件で当局の説明の虚偽を暴いた女性記者を待ち受けていたのも、実刑判決だった。

 ベラルーシ最大のニュースサイト「トゥット・バイ」で刑事事件を担当する記者をしていたエカチェリーナ・ボリセビッチさん(37)は2020年11月19日、買い物の途中で黒ずくめの男たちに同行を求められた。自宅の捜索後に連行されたのは、かつて報道公開された際に見学したことのある拘置所。カビや汗の臭いが染みこむ居室を見て「早く家に帰って体を洗いたい」と思った場所だった。

 ボリセビッチさんの運命を変える事件が起こったのはその8日前である11日の夜だった。首都ミンスクの住宅街にある広場で、住民たちが柵に飾った反政権を象徴する白と赤のリボンを覆面の男らが取り除こうとしていた。それを目撃した住民たちで作るインターネットのチャットに、近くに住むロマン・ボンダレンコさん(当時31歳)が「僕が行く」と書き残し、そのまま行方不明になった。

 ボンダレンコさんはその後、警察署から意識不明で病院に搬送されたところを知人に発見された。頭を強打しており、翌12日に死亡。治安当局はボンダレンコさんが「酔っ払ってけんかをし、広場に倒れていた」と説明した。だが、目撃証言などから、覆面の男らが暴行を加え、連れ去った可能性が浮上。住民たちは当局がボンダレンコさんの死に関与したと疑った。

医療情報から当局のうそを暴く

 この疑いを確信に変えたのがボリセビッチさんの書いた記事だった。医師の証言や診断書を基にボンダレンコさんの血液からアルコールが検出されなかったことを突き止め、当局の説明を覆した。しかし、待っていたのは「医療秘密を漏えいした」という容疑での逮捕。取材に応じた医師と共に起訴され、禁錮半年の判決を受けた。

 ボンダレンコさんの母エレーナさん(56)は毎日新聞の取材に「私たちはエカチェリーナ(ボリセビッチさん)が情報を記事にすることに同意していた。何の秘密もなかった」と振り返る。今年5月に出所したボリセビッチさんも「記者としての仕事をしただけだ。だが、今や記者の仕事は犯罪と同義になってしまった」とため息をつく。

 ルカシェンコ大統領は1994年の就任後、報道機関への統制を強めたが、近年はインターネットの普及に伴い独立系のニュースサイトが急増。20年8月の大統領選後に起こった抗議行動では、これらのメディアを通して治安部隊が市民に振るった暴力の様子が広まり、国民の怒りを引き起こした。

政権は独立メディアへの弾圧強め

 だが、抗議行動を弾圧によって沈静化させた今、ルカシェンコ氏は「民主主義ではなく、テロリズムを植え付けている」として、独立系メディアや非政府組織(NGO)などへの攻撃を強めている。

 ボリセビッチさんが所属していたトゥット・バイは5月に脱税容疑で捜索を受け、サイトは閉鎖された。他の独立系メディア…

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2021年8月5日木曜日

レバノン、国家「崩壊」危機 ベイルート爆発から1年 インフレで食料・電気不足 通貨価値10分の1に

 

レバノン、国家「崩壊」危機 ベイルート爆発から1年

インフレで食料・電気不足 通貨価値10分の1に

食料品店内は薄暗く、冷蔵庫は空っぽだ(7月28日、ベイルート)

レバノンの首都ベイルートで約200人が死亡した大規模爆発が起きて4日で1年を迎えた。直後に内閣が総辞職を表明して以降、政治空白が続き、経済は悪化の一途をたどる。7月末には3人目となる首相候補が指名されたが、政権樹立がおぼつかなければ、国家の崩壊が現実味を帯びる。

レバノンはシリアとイスラエルと国境を接する要衝にある。イランがシーア派組織ヒズボラを通じて影響力を高めてきた。レバノンやシリア、イラクのシーア派組織を支援して「シーア派の三日月地帯」と呼ばれる勢力圏を形成し、サウジや米国、イスラエルが警戒している。

ベイルートは1970年代まで金融都市として栄え、「中東のパリ」とも言われたが、80年代の内戦で荒廃し、イスラエルの軍事侵攻も招いた。危うい宗教・宗派のバランスの上に成り立つレバノンが崩壊すれば、地政学的なリスクが高まるのは必至だ。

「チーズの値段は1年半で5倍になった。ほとんどの客は買えないわ」。7月下旬、ベイルートの商店街を訪れると、家族で食料品店を営むフーリーさん(50)はため息交じりにこう話した。かつては肉や乳製品などを陳列していた冷蔵ケースは、空っぽのままだ。電力供給も不安定といい、店内は昼間でも薄暗かった。

レバノンは借り入れによる過度な補助金制度などで財政が行き詰まり、2020年3月には債務不履行(デフォルト)を宣言した。その直後に起きたのが、死者200人超、負傷者6500人以上を出したベイルート港の爆発だ。港に保管されていた硝酸アンモニウムが起因とされるが、原因究明には今も至っていない。

この惨事を受け、当時のディアブ内閣が辞職表明に追い込まれた。その後、2度にわたって首相候補が指名されたが、いずれも組閣に失敗。政治の空転で、経済はさらに危機へと近づいた。通貨レバノン・ポンドとドルとの固定相場は事実上崩壊し、現在は2年前の10分の1以下の価値で取引されている。

食料品や燃料の多くを輸入に頼るレバノンでは、通貨安はインフレに直結する。政府の統計当局によると、20年のインフレ率は85%で、今年に入ってからは100%を超えている。中央銀行の外貨準備は底をつき、燃料もまともに輸入できなくなった。6月以降は1日の大半は停電しており、ほとんどの街灯や信号機がともることはない。

経済の立て直しには政治の安定が欠かせない。アウン大統領は7月下旬、3人目となる首相候補にミカティ元首相を指名した。それでも、ベイルート・アメリカン大の政治学者、ナセル・ヤシン教授は「ミカティ氏が組閣に成功しても、経済再生に向けた本格的な改革実行は難しいだろう」とみる。

背景にあるのが、レバノン特有の政治構造だ。イスラム教、キリスト教などの公認18宗教・宗派が政治ポストや議席を分け合う。各勢力が末端の行政組織にまで利権の網を張り巡らせており、これが改革の妨げとなっている。

爆発が起きたベイルートの港(7月29日)

こうした体制が司法や行政などを機能不全に陥らせ、港湾の管理当局が硝酸アンモニウムを長年放置する事態を招いた。「娘を殺したのはこの国の政府だ」。次女のジェシカさん(当時22)を爆発で失った元工場経営、ジョージ・バジジアンさん(60)は悲痛な声を上げる。

一向に改善しないレバノンの状況に対し、旧宗主国のフランスをはじめとする国際社会はいらだちを強める。マクロン仏大統領は4日にレバノンの国際的な支援に向けた会合を主催するが、目的はあくまで人道支援だ。国に対する本格的な支援や国際通貨基金(IMF)による財政再建スキームの策定は、新政権が発足して改革に一定のめどが付いた後になる。

元世銀幹部のエコノミスト、ジャマル・サギル氏は「このままでは本当の『崩壊』が始まりかねない」とし、ハイパーインフレや飢餓、内乱などのリスクを指摘する。レバノンは国内の各勢力がそれぞれサウジアラビア、イランなどの周辺国と密接につながる。レバノンに迫る政治・経済の危機は、対立が深まる中東のさらなる混乱要因になりかねない。

(ベイルートで、木寺もも子)

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